歪んだ怨念 – 整体師の奇妙な治療
薄暗い路地にひっそり佇む「骨格矯正 古屋」。看板は色褪せ、窓ガラスは埃で曇り、一見すると営業しているようには見えない。しかし、口コミで評判は高く、慢性的な痛みを抱える人々が藁にもすがる思いで訪れる場所だった。
主人公の佐藤健太は、長年悩まされていた腰痛に耐えかね、古屋を訪れた。大学時代のラグビーで負った怪我の後遺症が、年々悪化していたのだ。
店内は薄暗い照明に包まれ、古びた家具が並んでいた。奥の部屋から現れたのは、白髪混じりの長髪を後ろで束ねた老婆、古屋光江だった。鋭い眼光を放ち、静かな声で健太の症状を問診する。
「歪んだ骨格が痛みを生み出している。私の手で矯正すれば、必ず楽になる。」
光江の言葉に、健太はかすかな希望を見出す。施術台に横たわり、光江の指示に従って体を動かしていく。
「力を入れろ!もっとだ!」
光江の力強い声が響き、健太は全身に痛みを感じる。しかし、不思議と嫌悪感はなく、むしろどこか懐かしいような感覚に包まれた。
数回の施術を受けると、健太の腰痛は劇的に改善していく。同時に、奇妙な現象が起こり始めた。夜になると、健太は背筋にぞっとするような悪寒を感じ、奇妙な夢を見るようになった。
夢の中で、健太は光江とは別の老婆の姿を見る。老婆は苦痛に満ちた表情で、背骨が異様に歪んでいた。
「助けて…私を…ここから…出して…」
老婆の言葉は途切れ途切れで、何を訴えているのか明確には分からなかった。しかし、健太は老婆の言葉に深い悲しみと怨念を感じ取った。
健太は夢から覚め、背筋に冷や汗が流れていた。老婆の夢は毎晩のように続き、健太は次第に精神的に追い詰められていく。
ある日、健太は決心し、光江に夢のことを尋ねた。すると、光江は静かにこう答えた。
「あの老婆は、私の母です。長年、骨格の歪みに苦しみ、ついには命を落とした。彼女の怨念が、あなたに取り憑いているのです。」
光江の言葉に、健太は言葉を失った。老婆の夢は、光江の母親の苦しみを映し出していたのか。
「私は、母の怨念を解き放ちたい。そして、あなたを救いたい。」
光江は真剣な表情で健太を見つめた。健太は恐怖を感じながらも、光江を信じることにした。
光江は、健太に特別な施術を施した。それは、単なる骨格矯正ではなく、老婆の怨念を解き放つための儀式だった。
施術は数時間に及び、健太は全身に激痛を感じた。しかし、光江の言葉に励まされ、健太は必死に耐え抜いた。
そして、ついに老婆の怨念は解き放たれた。健太の夢から老婆の姿は消え、長年苦しんでいた腰痛も完治した。
古屋を後にし、健太は青空を見上げた。光江との出会いは、健太に痛みからの解放だけでなく、人生の新たな希望を与えてくれた。
しかし、健太は今でも夜中に背筋が冷たくなることがある。老婆の怨念は完全に消えていないのか、それとも健太自身の心に何かが残っているのか。その答えは、健太自身にも分からない。